京都府在住、40才、男性、BKKTL
ブラック企業とは、「新興産業において若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワハラによって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業」または、「従業員の人権を踏みにじるような全ての行為を認識しつつも適切な対応をせずに放置している企業」ウィキペディアにはこのように定義されています。
私は以前、業界では超有名なブラック企業、大○薬品工業株式会社に入社し働いておりました。現在は外資系企業に吸収、その後武田製薬の子会社になったため、当時のような労働環境ではないと思いますが、当時の会社の実態、ブラック企業についてのリアルな現実をご紹介したいと思います。
製薬会社の営業はMR(Medical Representatives)と呼ばれています。医療機関を訪問し、医薬品情報を医師、薬剤師に提供し、適正な使用と普及を図り、安全性情報(副作用など)を医療の現場から収集して報告、フィードバックすること等が主な業務となり、普通の会社の営業マンとは役割が違います。
病院などで処方される医薬品は処方箋を出してもらい薬局などで受け取ることができ、ドラッグストアで購入することはできません。薬の価格も国が値段を決めており、製造販売企業が値段を決めることはできません。そのような国が管理している薬を扱っているので、高い倫理観と、コンプライアンスの順守が求められています。
当然製造販売元である製薬会社もそのような対応を求められているはずなのに、この大洋薬品だけは違っていました。当時はCMを流したり、自社ビルを名古屋駅前に建てたりと華やかでクリーンなイメージを印象付けようとしていた一方、働いている労働環境はブラックそのものでした。
MRになるには、公益財団法人MR認定センターの試験を受け、合格する必要があります。毎年12月に試験があり、合格に向けて社内での研修が始まります。他の製薬会社であれば、テキスト代、試験代、試験に伴う交通費、宿泊代などは会社が負担します。それはこの業界で必須の資格だからです。しかしながら私は全て自腹、自費で支払いをさせられました。資格取得が業務命令なのであれば、それに伴い発生する費用は本来なら経費として処理するのが妥当であると弁護士の見解も出ていますが当時の私は泣く泣く数万円を未来への投資だと思い支払いました。この話を他のメーカーMRにすると、考えられない、ありえないと話した全員に言われました。
月に2度土曜日にエリア会議が行われました。エリア内の近県の同僚、上司が集まり会議をするのですが、営業車で移動します。その際、同じ県の同僚同士はどこかに集合し1台で移動、会議に向かう高速代は経費、帰りは自腹となり片道分しか清算できませんでした。会議を開催する県の担当者は高速を利用しませんし、遠くの県から来た担当者程自腹額が大きくなり損をする。このような不平等なことも普通に起きていましたが当時は何も言えませんでした。
会社が社債を発行していたのですが、誰も買い手がおらず上司にノルマが課せられました。そのため、上司は営業成績の悪い者から無理やり社債を購入させていました。一口10万円単位で、ボーナスから天引きです。営業成績が悪い為、無理やり買わされたとしても文句も言えない状況でした。数年後会社が外資系企業に買収されたのですが、その社債を100倍で買い取ることになり、当時10万円を無理やり買わされた社員は1000万円になって戻ってくるという奇跡も起きました。人生何が起こるかわかりません。
評価体系も全く不透明でした。予算を達成しようが、新規売上で上位に入ろうが、ボーナスに差がなかったり、逆に成績の悪い人が高かったり。根拠がわからないまま、ただ家に届いた紙を見て金額を知るだけのボーナスでした。昇給に関しても、毎年の上昇幅が違っており、相変わらずその根拠が不明でした。こんな状況ではモチベーションも上がらず、やっても無駄、ミスなく仕事をこなすだけでいいという、悪循環に陥っていました。
唯一評価がわかる伝統行事がありました。古紙回収、社内販売の営業ドリンク購入、フットサルチームの応援、この3点が評価対象になっていました。いずれも社長の強い要請で長年行われてきました。
古紙回収、コピーや使用した書類の裏が白紙の場合、それを集めて半年毎に社員一人一人が古紙を会社に提出しました。私はA4の裏紙5cmですといった感じで、申告し古紙を会社に提出していたのです。その量が多ければ多いほど評価されるという謎の行事です。部署によって差が出ますし、現場の営業はそれ程用紙を使うことも無いので、無駄に印刷してストックしていました。企業の印刷物なので、個人情報や機密も書かれている恐れもある中、社内でその裏紙を2次利用するという今からは考えられない事が平気で行われていました。
営業ドリンクの購入、会社で製造販売していた営業ドリンクを社員に買わせ、その購入量を評価する制度です。上司に必死に媚を売りたい人は自腹で数万円払いドリンクを購入し飲みきれないので家族、親戚に配ることになります。私も毎回1箱5000円程度購入させられていました。
フットサルチームの応援、社長がサッカーが好きという理由だけでフットサルチームを買収し、全員プロ契約までしました。挙句の果てに名古屋にフットサル専用スタジアムまで建設し、完全に会社を私物化しておりました。そのため、週末にはチームの応援に行くことを強制され、応援に行った回数が評価の査定となっていました。
管理職、上司によるパワハラも日常的にありました。会議で全員の前で罵声を浴びせられ、今すぐ会社を辞めろ、お前の居場所はない、できませんはありえませんなどと格言めいたことを言う上司もいました。とある会議に営業部長が参加することになりびくびくしながら待っていると、部長が会議室に入るなり竹刀で机を一撃し、いきなり怒鳴りだすということもありました。今時竹刀をもって会議に来るか?本当に製薬会社?こんな幹部しかいない会社に未来は無いと思い退社を決意しました。
ブラック企業なりに不正を通報できます、身元も特定されませんというホットラインが設置されました。通常であれば第三者の外部業者に繋がるのはほとんどで、連絡者の身元は完全に守られるのがホットラインです。私もあまりのパワハラが過ぎるので、同僚を代表してそこに連絡しました。現状を訴え、後日会社より回答が来ると言われました。すると次の日に上司から呼び出しがかかり、急遽2人だけでの面談がはじまりました。
まさかとは思いましたが、そのまさかです。俺に何か文句あんのか?お前は俺の方針に従えんのか?と関西弁でヤクザばりの脅しを受けました。ホットラインは会社に筒抜け、連絡者まで上司に報告されていたのでした。私は辞めるつもりでいたので、正論をぶつけ上司に従わない旨を伝えました。私は密告者扱いとなり会社を少しでも信用していた自分が情けなかったです。その数年後、そのパワハラ上司も降格になり自己退職させられた様なので心がスーッとしましたが。
このようなパワハラが日常的に行われ、営業予算も到底達成できないような数字を与えられ、予算に達しなかったからボーナスを減らすという会社のからくりもあったので、うつ病になり会社を休職する、退職する人も何人もいました。
うつ病はまじめな性格で仕事に取り組んでいる人ほどかかりやすいともいわれ、うつ病と診断されると工場に異動になったり、自主退職に追い込まれました。会社に見切りをつけたり、他のメーカーから転職してきたが、あまりに勤務体系が酷すぎると退職者が毎月続出しましたが、会社は足りなくなれば補充すればいいぐらいに考えており、現場で社員を育てるという考え方が全くありませんでした。
上司も管理職からの数字の圧力が強いようで、能力が無いとみなされるとすぐに降格、リストラに追い込まれ、その流れで現場のMRにも強く当たり退職者が増えるという悪循環が長い間続いていました。こんな簡単に企業がリストラできるのかというぐらいに簡単に辞めさせていたので、今では考えなれない状況です。
今現在、私は大手製薬会社でMRとして勤務しております。このようなブラック企業を自ら体験してきたので、今の職場がかなり生ぬるく感じてしまい、うちのはブラック企業だからと話す同僚を見ると情けなく感じます。下には下がいて、上には上がいる。今の職場より上も下も現実にあり、その環境で働いて収入を得るしかないからです。それが嫌であれば環境を変えるため転職する。ブラック企業で学んだことがそれでした。不満を持ち続け嫌々働く、同僚との飲み会で愚痴を言い、共感して憂さを晴らす。当時はこれの繰り返しでしたが、何の生産性も無い事に気付きました。
社会に出て40年以上は働かなければなりません。同じ働くなら前向きに楽しく働きたいと思うはず、ブラック企業で今働いている人は、惰性でこのまま過ごさず一歩前へ進んでみてはいかがでしょうか?私はもっと早く会社を辞めていればと後悔している程です。今は満足しながら仕事を続けています。