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【事実は小説より奇なり】 マジで会社が崩壊するときの俺たちの一部始終 ~後編「崩壊編」~

前回までのあらすじ

超ド級のブラック社長の圧迫に耐えながら、ギリギリのラインで戦ってきた社員16名だったが、限界ラインを超え、ついに決壊の時を迎える。

一縷の望みを賭けて社長への直訴に踏み切った社員たちだったが、帰ってきたのは罵声と誹謗中傷の言葉だけ。
逃げ道を失い1名の社員が発狂してしまったことで事態は急展開を迎える。

社員16名のうち12名が退職届を提出する前代未聞のクーデターにより会社の秩序は完全に崩壊。
辞表を叩きつけ即日会社を去る4名を除く残り12名は、わずかに残った愛社精神と責任感に促され最後の事後処理を行うために月末までの残留を決めた。

社員のほとんどが退職の意思を固めたことにより収束を迎えたかのように思えたクーデターだったが、当面会社に残ることを決めた12名はこの後に発生する出来事までは予測できていなかった。

驚くほど静かな1日になったクーデター初日から一転、クーデター翌日の朝は激しい喧騒から始まることになる。

クーデター翌日 10:30

「どうなってるんですか!Yさんの携帯電話が突然連絡が繋がらなくなっているんです!昨日納品予定の荷物がまだ着いてないんですよ!早くYさんに繋いでくださいよ!」

同県内に本社を構える小規模卸の社長が怒鳴り込んできて、入口付近で社員と小競り合いを始めた。

Yは即日退社を決めたメンバーの一人。もちろん誰一人彼の残した仕事の処理を行なっていない。
いや、行なっていないというよりはできない。
彼がどんな仕事を行なっていてどんな状況にあるかを把握していないのだから当然の話だ。

「Yは昨日付で退職いたしました。御社の業務は引き継いでいますので今日の所はおかえりください」

「帰れとはなんだ!引き継げていたらこんな所に来てないでしょうが!!」

しばらくの間、怒声は途切れることなく続いたが「ラチが開かない」と理解した小規模卸の社長は
「問題にするからな!覚悟しとけよ!」と捨て台詞を残してその場を立ち去っていく。

この時はまだ、誰もあまりこの状況に危機感を感じてはいなかったように思う。

会社にとって重要度の低い取引先の罵声ごときにいちいち反応していられないほど、各自が抱えている業務状況はひたすら深刻の度合いを深めていた。

クーデター翌日 13:30

切れ目のない作業の合間を縫って昼食のために地下街にある馴染みのカレー屋に足をのばす。

会社のすぐそば、オフィス街にあるこのカレー屋はいわゆる「行列のできる人気店」で、昼食時は相当の待ち時間が起きるのだが流石にこの時間になると埋まっている席はまばらになっている。

注文後、程なく運ばれてきたチキンカレーに手を伸ばそうとした時、聞き覚えのある言葉、もっと直接的に言えば(昨日退職を決めた)現在の勤務先の名前が店内でやり取りされていることに気づき「ギョッ」とする。

「おい、聞いたか? ◯◯(robinの勤務先)やばいらしいよ。」「あぁ聞いた聞いた。社員がどんどん辞めて行ってるらしいな。つぶれる可能性あるって聞いたぜ。もし逃げられたらまずいな」

目を合わさないように声のする方向へ視線を泳がす。
見覚えのある社章。間違いない、会社と最も太いつながりのある大手商社の社員だ。

それからもしばらく続く自分の会社の悪評を耳にしながら、全く味のしないカレーを大急ぎでかき込み逃げるように店から出ていく。

(卸売業界のネットワークを舐めていた・・・)
今朝殴り込んできた会社社長の「問題にするからな!覚悟しとけよ!」という言葉が頭の中で反芻される。

何かとんでもない事態が起きるのではないかという予感がし始めていた。

クーデター翌日 15:50

「失礼します!社長にお話をお聞きしたく伺いました」

会社受付に突如スーツ姿の男約20名が現れ社長への面会を求めてきた。
声のする方をにちらりと目をやる。今日カレー屋で会社の話をしていた大手商社の社員らに違いない。

会社の取引額トップ3に入ってくる会社からの要請を無下にすることもできず、社長自らが対応。
程なく社長が先導し男たちは例の会議室に入室していく。

社員よりも多い。20人を超える大所帯。
うち数人は彼らの得意先のバイヤーや店長たちも混じっているようだ。

会議室に入室後、彼ら全員が持参したノートパソコンを恐るべきペースで設置していく。
まるで会社ごと引っ越してきたのではないかという雰囲気だ。

パソコンのセットが一通り終わると大手商社の社員が会議室から出てきて言い放つ。

「それではまずは責任者の方、全体のお話聞かせてもらえますか」

クーデター翌日 17:00

対応に当たったのはクーデター前日に社長へSOSを出した例の古株社員。

聞き取りは約1時間に渡り行われたが事態の深刻さは相手にとっても衝撃的だったようだ。

指揮系統が全く取れておらず、個人が処理している業務以外の情報は誰も共有できていない。
処理が手遅れと判断した業務は手をつけずに放置されている。
出荷もれや重複出荷が乱発し、システム内の在庫と倉庫の実在庫の数字が大幅にズレていて修復不能。

会議室から暗澹とした表情で出てくる古株社員の向こう側に、頭を抱え首を横に振る商社社員たちの険し表情がうかがえる。

クーデター翌日 18:15

古株社員の聞き取り後、2名の聞き取りを経てrobinが呼ばれて室内に入っていく。

混乱しきっている社内の中では、まだ現状の数字やスケジュールの大枠をなんとか把握していたrobinは、自分が把握している状況と取っている対策を包み隠さず報告するが相手の反応は冷ややかなものだった。

「それでは納期に全然間に合わないですよね」
「○日までに1000ケース手配できる方法を教えてください」

同じ言葉を繰り返されるだけで会話が全く成立しない。かと言って彼らの言葉からは、この切羽詰まった状況の打開策を本気で引き出そうという気概も全く感じられない。

(なるほど・・そういうことか・・・) 状況がようやく読めてくる。

彼らにもこの状況が「収拾不可能」ということはわかっているのだ。

要するに今行われている行為は「こちらは最後までメーカーを追い詰めた」「メーカーからの納期遅れに対してOKを出さなかった」と自分たちの取引先に言い訳するためのポーズ。この聞き取りの意味は何もないのだ。

「とりあえず○日までに最低でも1000ケース納品してください」その言葉で唐突に聞き取りは打ち切られた。
なんどもなんども最大で300ケースしか納品できないと説明しているに。

クーデター翌日 22:00

得意先のバイヤーを近くのホテルに見送った後も大手商社社員による監視体制は続いた。
バイヤーがいなくなった後の彼らは、それまでの冷静な対応を捨てまるでサラ金の取り立て屋のように変わっている。

「ああ、こいつら本当にダメです。どうにもなりません」
「わかってます。絶対に逃がしませんから」

怒気を孕んだ会社への報告は職場全体に聞こえてくる
我々を監視するために商社メンバーの交代役がきてバトンタッチが行われる

(逃がさないというのはこういうことか・・・)人生で初めての本当の監禁状態がスタートした。

クーデター翌日 25:00

自宅から何度か電話がかかってきているがとても通話で事実を話せる状況にない。
「取引先に監視されている。会社から出ることができない」とメールを返す。

その後も連続してコールはかかってくるので「大丈夫」とメールを返し、電話の電源をOFFにする。

その日の監視は朝まで続いた。

クーデター発生から2日目 10:00

その日も朝からポーズだけの聞き取り業務が延々と続けられる。

「やる」という言葉を引き出すまで解放されないことをわかってきた社員は、早々に「やります」と報告をして席に戻る、もちろん収取できる目処などない。

この日、最も長い時間尋問を受けたのはrobinだった。

まだ一番まともに話ができそうだったからかもしれないし、なかなか「やる」と言わなかったからかもしれないし、ただ一番罵りやすかっただけなのかもしれない。

2時間以上に及ぶ尋問と2日以上にわたる不眠不休でカラダは限界の状態を超えてしまっていた。

クーデター発生から2日目 26:00

「今日はそろそろ帰ります。明日9時からまた打ち合わせを始めますので、それまでに今日の状況を資料にまとめておいてください」

監禁2日目の深夜2時、最後まで残っていた大手卸メーカー社員1名が会社を後にする。

2日ぶりに訪れた一瞬の監禁解除。robinはふらふらと立ち上がり社内で1番の古株社員の元に立ち寄る。

「僕はもう無理です。明日早朝に会社から逃げます」

古株社員は何も話さない。robinも立ち止まったまま長い時がすぎていく。

その時古株社員の前の席に座っていた社員が口を開いた
「robinがいなくなったら本当に最後だ。俺も一緒に逃げる」

「俺も・・・」「俺も・・・」
その言葉に引きづられるように結局4名の離脱が決定したがその中に古株社員の姿はなかった。

クーデター発生から3日目 7:30

昨日の監禁解除から5時間。
疲弊しきった社員の多くは自宅に帰る気力もなく机に突っ伏して泥のように眠っている。

robin一人があの日のように社長を出迎える準備をしていた。

昨日離脱を決めた残りのの3名はすでに会社から逃亡していたが、これでも10年以上世話になった会社だ。
一言最後まで付き合えなかったお詫びの言葉だけは伝えておきたかった。

待ち構えるrobinに社長はすぐ状況を察した様子で、すぐに会議室へ促される。

「どうした」

「すみません。もうこの状況に耐え切れません。今日で会社をやめさせていただきます」

「そうか」 何やら考え込み言葉を探していた社長が口を開く。

「robin。今お前がこの会社をやめてしまうことで会社が致命的なダメージを受けることをお前は理解してるよな」

唐突とも言える不思議な質問だ。
この会社にとってrobinがとても重要な存在だと言っているだけのようにも聞こえるが何か違和感がある。

(それはわかっていますが・・・)そう口をつきかけた時、背中に冷や汗が走った。

2日前、クーデターが発生した日の深夜に何気無く見ていた「退職時のトラブル」という記事にあった一文。

「会社に損失を与えると理解した状態で連絡が取れなくなるなど会社をやめると、損害賠償の対象となる可能性がある」という言葉を思い出したのだ。

(まさか・・いや、この人ならやりかねない・・・・)

真偽は確かめられないが、おそらく間違いないだろう。
こういう時、いつもそうやって非を他人にすり替えてきた姿を見てきたのだ。間違えようがない。

この後に及んでもどこまでも狡猾な社長に恐怖しながらrobinはゆっくり口を開く。

「いえそんなことはありません。既に私の力でなんとかなる状況ではありません」と。

クーデター発生から3日目 8:30

大手商社の社員たちに見つからないよう会社の裏口から逃げるように会社を後にする。

会社や得意先と繋がる可能性のある携帯電話の電源を切り、いつも乗る通勤電車と逆方向のガラガラに空いている電車に乗り込む。

自宅の最寄駅につくと時計は9時30分をまわっていて、スーパーやクリーニング店など、商店街に店を構えるいくつかの店は既に営業をはじめていた。

ふと思いつき、開店したばかりの携帯電話会社に飛び込み「電話番号の変更」と「機種変更」を依頼する。

「電話番号やメールの引き継ぎはおすみでしょうか?」

「大丈夫です」会釈で遮ると、親切で笑顔が素敵な女性スタッフは少しだけ不思議そうに首を傾げたが、その後何も聞かず処理を勧めてくれた。

「お待たせいたしました。それでは新しい携帯電話はこちらになります。新しい電話番号は・・・・」

何のデータも入っていない新しい携帯電話を受け取った時、ようやく全てが終わった感じがした。

肩からすうっと力が抜けていくのを感じながら、自分が今猛烈に空腹であることを思い出していた。

〜 【事実は小説より奇なり】マジで会社が崩壊するときの俺たちの一部始終 <完> 〜

最後にrobinからひと言

随分と長くなってしましましたが、以上がブラック会社崩壊の時を生で体験したrobinのレポートでした。

もちろんフェイクや演出を加えていますが、あの時、同じ時間を共にした人が読んだなら、一瞬で「自分たちのことだ!」と理解できるほどに大筋はリアルに表現しています。

このブラック会社からの逃走後、2ヶ月くらいは会社最寄りの駅名を聞くだけでストレスで動機が激しくなるという症状が出ていましたが、現在はすっかり良くなって、元会社のすぐ近くまで買い物に出かけたりすることもあります。

こんな風に言葉にしてアウトプットできるようにもなりましたしね!

ただ、1つ残念なのはあの頃頻繁に通っていた例のカレー屋さん。

どういう理由かはわかりませんが店の前まで行っても、どうしても中に入る気持ちがわかないんです。
会社を辞めて5年以上たっているんですけどね。

それでは今回はこのあたりで。robinでした。